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スッ…!



案内された部屋の襖を開くと、そこは木で作られた家具が並ぶ落ち着いた雰囲気の和室だった。


障子の窓の向こうには、山々と港方面の海が見える。


青と緑がくっきりと分かれているその光景は城の最上階から見えていた自然とは違う雄大なものだ。



「…海の匂いがする…。

波の音まで聞こえてきそう。」



「そうだね。

ここは港から近いから、風に乗って聞こえてくるかもしれないね。」



穏やかな会話を交わし、アルが畳の上に荷物を置いた。



「セーヌさんの荷物はここに置いておくね」



「あ、ありがとうございます。」



するとアルは、ふっ、と笑いながら「また敬語が出てる。」と私に言った。



…気を遣わずに普通に話そうとしても、王子様とは会ったばかりだし、やっぱりうまく話せない。


素性を知って、何となく緊張してしまう。



その時、アルが何かに気がついたように
ぴくり、と眉を動かした。



「…これは…?」







アルの言葉に彼の方を向くと、私のカバンからひょっこりと顔を出している“花冠”が見えた。


アルは興味深そうに私に尋ねる。



「これは、シロツメクサの花冠?」



「は…、う、うん。そうだよ。」



思わず、“はい”と返事をしそうになりながらアルに答える。



「手に取ってみてもいいかな?」



「もちろん!どうぞ。」



まじまじと花冠を見つめているアルに、私は言葉を続けた。



「それは、城を出る時にロッド様がくれたものなの。」



「!」



アルは、私の言葉に驚いたように目を丸くした。

そして、小さく呟く。



「これを…ロッドが……?」



「そう…!

地下牢から出して、呪いを浄化したお礼としていただいたの。」



アルは、一層興味が増したように花冠を見つめる。



「…確かに、この花冠が枯れないように魔法がかけられているみたいだ。

……へぇ…、これをロッドがねぇ…。」



どこか楽しそうに表情を緩めたアルは、私に向かって尋ねた。



「もしかして、これ、ロッドが作ったの?」



「そうなの!城下町の子ども達に教えてもらったって言ってたわ。」



アルは私の言葉に、ぷっ、と吹き出して「あはは!似合わないな…!剣しか握って来なかったロッドがこれを?!」と笑い出す。


私は、そんなアルにつられるようにして笑みをこぼした。



…私も最初にロッド様にこれを貰った時、予想外すぎて笑っちゃったっけ。


大人でクールなロッド様が、花冠を一人で作っている姿を想像しただけで可愛く思えてくる。