「わぁ…!大きな旅館ですね…!」



数十分、木々に囲まれた道を歩くと、目の前に歴史を感じる木造建ての旅館が現れた。


敷地は結構広いようで、奥の方に温泉から立ち上っているであろう湯けむりが見える。



すごい…!


ここが貸切状態なんて、夢みたい…!



私が目を輝かせて旅館を見上げていると、おばあさんが、にっこりと目を細めながら口を開いた。



「お客様には特別眺めがいい部屋をご用意します。

どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さい。」



と、その言葉にアルが私たちに向かって尋ねた。



「部屋割りはどうする?

一人一部屋は贅沢すぎるか?」



すると、ロッド様がさらり、と言い放つ。



「二部屋で十分だろ。

旅がいつ終わるか分からない分、金は貯めておいたほうがいい。」



あ、そうだよね。


アルもいくら王子様とはいえ、大金を持ち歩いているわけじゃないようだし。



すると、その言葉にアルはちらり、とロッド様を見た。



「…そうだね。

確かに、ロッドの言う通りだ。」



アルはそう呟くと、私へと視線を移し私の持っていたカバンを、すっ、と手に取った。



「じゃあ行こうか、セーヌさん。」



「「え?」」



私とロッド様の声が重なった。


すると、黙って一連の流れを聞いていたラントが私に向かって口を開く。



「?何驚いてんだ?

二部屋になったんだから、アルトラ様とセーヌが同じ部屋なのは当たり前だろ?夫婦なんだし。」






あ…、そうなるのか。



私は、勝手に一人部屋なのかとおもってしまっていた。


ロッド様も、はっ、とした様子でまばたきをしている。


その時、アルが私の顔を伺いながら口を開いた。



「セーヌさんが嫌なら、僕はロッド達の部屋に行くけど…?」







「い、嫌じゃないです!

“夫婦”ですから!」



私の言葉に、アルはくすくすと笑うと、優しげな表情で頷いた。


アルは私の荷物を持ったまま、旅館の中へと入っていく。



…そうだよね。


私とアルはまだ仮とはいえ“夫婦”なんだ。


同じ部屋に泊まるなんて、普通のこと。



私は、一瞬の戸惑いをかき消すように、アルの背中を追いかけた。



「じゃあ俺たちも行きましょうか、ロッド様。」



ラントの言葉にロッドは微かに目を細めた。



「…あぁ、そうだな。」



遠くなるセーヌの背中を見つめながら、ロッドはそう小さく答えたのだった。