私の隣にやって来たラントは、アルを見ながら数回まばたきをした。


アルは、にこりと笑ってラントに答える。



「ちょうど、今、会ったんだよ。

ラント君も、会うのは半年ぶりくらいか?」



ラントは、じぃっ、とアルを見つめながら、こくこくと頷いた。



「まさか本当に護衛もなしで港にいるなんてな。

あんた、本当に王子かよ。」



ラントのやけにフランクな物言いに、アルは笑いながら答えた。



「今はジャナルのせいで城に戻れないから、ただの旅人ってとこかな。

ロッドとラント君がいれば、護衛なんて必要ないさ。」



穏やかにそう言ったアルを見つめ、私はラントに向かって小声で尋ねる。



「あの…。アルは王子様なのに敬語とか使わなくていいの?

ラントは一応、騎士団の一人なのに」



「俺が慕っているのはロッド団長だけだ。

王子だからって別に関係ねーよ。」



さ、さすがラント。



生意気……

いや、よく言えば物怖じしない性格だもんね。



なんとなく、ラントがアルに向ける視線からは嫉妬心を感じる。



…アルはロッド様と幼馴染みだから、ヤキモチ妬いてるのかな。



ライバル心にも似た気持ちをアルに向けているラントはともかく

王子様との対面は思いもよらぬ展開になったが、とりあえず合流できたことにほっ、と胸をなでおろす。


するとその時、アルが真剣な顔をしながら口を開いた。



「ロッド。伝書鳩の連絡しか聞いていないがジャナルが父上達や僕を嵌めたことは本当なんだな?」



ロッド様は、はっ、とした様子でアルに答える。



「あぁ…。ジャナルを問い詰めた時に、奴は俺に全てを話したよ。

…王様達を助けるどころか、俺も呪いをかけられてしまったがな。」



アルは、それを聞いて「そうか…。」と顔を曇らせた。

そして、私達へと視線を移して言葉を続ける。



「とりあえず、荒れ地の小屋に監禁されている父上と母上の呪いの魔法陣を解けば、ジャナルの陰謀は阻止できる。

僕も父上達の魔力を辿ってみるから、もう少し力を貸してくれないか。」



強い意志を宿したアルの翠色の瞳に、私達は大きく頷いた。



…これでようやく、反撃の役者が揃った。


一刻も早く王様達を助けだして、ジャナルの独裁政治をやめさせないと…!



その時、アルがふとロッド様を気遣うように見つめて言った。



「お前の呪いは大丈夫なのか?

まるで不死の病のような呪いだと伝書鳩の連絡に書いてあったが…」



ロッド様は、微かに目を細めて答える。



「あぁ…。姫さんのお陰で、どうにか呪いに殺されずにすんでいるような状況だ。

ジャナルの魔力を奪わない限り、呪いは解けないらしい。」



すると、アルが顎に手を当てながら私に尋ねた。



「セーヌさんの力では、ロッドの呪いの進行を遅めることが精一杯なの?」



「はい。

いくら浄化しても、呪いの痣が消えなくて…。」



…本当に申し訳ない…。


ジャナルの呪いが、これほど強力だとは思わなかった。



すると、アルは何かを閃いたように、はっ!とした。



「そうだ…!」



ぽつり、と呟かれた言葉に、私達はアルを見つめる。


すると、アルはにこやかな笑みを浮かべながら私達に言った。



「この港町の近くの山に、呪いの魔法によく効く温泉があるらしい。消すことはできなくても、少しは体を休められるかもしれない。

今日は湯治も兼ねて、その山の宿をとらないか?」