「…面白い女の子だね、君は。
僕を助けようとしてくれたの?」
心地よい穏やかな声が、私の耳に届いた。
おかしそうに笑っている彼に向かってぎこちなく頷くと、彼は私を見つめながら言った。
「僕は別に、ここから飛び降りる気はなかったよ。
ただ、海に近い防波堤の先に腰掛けようと思っただけで。」
「えっ!!!」
私が驚いた声を上げると、青年は翠の瞳を微かに細めながら言葉を続けた。
「この辺では見ない顔だね。
僕、女の子に押し倒されたの初めて。」
「っ!!」
その瞬間、私は彼の膝の上に乗って支えられたままでいることに気がついた。
「ご、ごめんなさい!」
私が急いで立ち上がると、彼もすっ、と私の隣に立った。
私よりも十五センチほど高い彼は、ロッド様より少し低い。
彼は石造りのブロックまで歩いて戻ると、私に向かって手招きをした。
私は、はっ、として彼の隣に腰掛ける。
「あの…お怪我はないですか?
ごめんなさい、私が早とちりしたせいで。」
「僕は大丈夫。君の方こそ、服が汚れてしまったね。
そんなにかしこまらなくていいよ。君は一応、僕の命の恩人なんだから。」
そう言って微笑む彼に、私も少し緊張が解けて、ほっ、と息を吐いた。
青年は、私に向かって優しく声をかける。
「…初対面の君に見破られるなんて、僕は相当感情を表に出していたみたいだね。
さっきまで、結構参ってたんだ。悩みがあってね。」
青年は、「まぁ、さっき君が笑わせてくれたお陰で気が紛れたけど」と続けた。
…“悩み”…?
私は、青年に向かって口を開く。
「…よければ、私が聞きましょうか?
話すだけでも、気がもっと楽になるかもしれませんし。」
すると、青年は少し目を見開いた後、ふっ、と笑って私に答えた。
「…そうだね。これも何かの縁かもしれないし。
聞いてくれる?」
私は、こくん、と、頷いた。
青年は、港町へと視線を向けながら、どこか遠い目をして話し始めた。