そうこうしているうちに、城の中を粗方案内し終えたジャナル大臣は、私を城の最上階の部屋へと通した。

そこは、螺旋階段から続く廊下以外からはどことも繋がっていない、不思議な構造をしている。



…お風呂やトイレも付いているんだ?


部屋から出る時は必ず螺旋階段を通らなきゃいけないから不便だって思ったけど

こんなに設備が整っているんじゃ、部屋を出る必要もないかも。



ふかふかのソファに腰を下ろした私に、ジャナル大臣はにこやかな笑みで言った。



「毎日の着替えや食事は、城の召使いに運ばせますので、姫様は基本この部屋でお過ごしください。

婚約されたとはいえ、正式に国民に発表などはしていませんから、城下町に出ることも控えていただけると…。」



あ、そうなんだ?


ということは、私はずっと部屋の中で暮らさなきゃいけないってこと?



ジャナル大臣は、私の戸惑いを勢いで流すように言葉を続けた。



「これからのことは、王や王子が城に戻ってきてから考えましょう。

どうしても部屋を出たい時は止めませんが、地下牢にだけは近づかないでくださいね」



「は、はい。分かりました。」



少し窮屈だと思った生活も、王様達が帰ってきてくれれば終わるんだ。


それまで、じっとこの部屋で過ごすことくらい出来る。



それにしても、大臣はよっぽど心配症なんだな。

地下牢に近づいたとしても、牢の中の人に攻撃されるなんてことはないはずなのに。


…まぁ、何度も釘を刺されたから、行こうだなんて思わないけど。






「では姫様。私は公務がありますので、失礼させていただきます。

どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。」



「あ、はい!案内ありがとうございました」



私が、はっ!としてそう言うと

ジャナル大臣は、うやうやしく頭を下げて部屋を出て行ってしまった。


しぃん、とした部屋に、ただ一人取り乗り残される。


私は、部屋を見回しながらぽつり、と呟いた。



「…王子様もいないんだ…。

いつ帰ってくるんだろう?」



私の独り言は、誰から返事が来るわけでもなく、ただふわりと空気の中に溶け込んで消えていったのだった。


そして…


この日から私は城の最上階の部屋で、想像していた新婚生活とは程遠い生活を送っていくことになったのです。