カァ…カァ…



カモメの声が、海風と共に聞こえてくる。


樹海を抜け、太陽が真上に輝くお昼過ぎ。

私達は国境の港町の目の前まで来ていた。



「それにしても、すげー数の船だなー。

外国の貿易船ばっかりだ。」



ラントが、港にとまっている船を見つめながら口を開いた。


確かに、青い海に映えるように色んな色の船がとまっていて、それぞれ国旗が風になびいている。



「王子様の船はもう到着しているのでしょうか?」



私がそう尋ねると、ロッド様は目を細めながら私に答えた。



「あぁ。ノクトラームの国旗を掲げた船が波止場にとまっている。

おそらく、アルトラはこの港町のどこかにいるだろう。」



…!



私は、胸がどきん、と鳴った。



…ついに、王子様に会えるんだ…。



なんとなくそわそわして落ち着かないでいると、ラントが顔をしかめながら口を開いた。



「…あの天然人タラシ王子とセーヌが夫婦になるなんて、いまいちピンと来ねーな。

アルトラ王子は、一生結婚しなさそうと思ってたのに。」



えっ!



私は、その言葉にラント向かって尋ねた。



「ラントは、王子様に会ったことあるの?」



「当たり前だろ!俺だって騎士団の一員なんだから。

自分が仕える奴のことぐらい知ってるだろ、普通。」



そ、そうだよね。


確かに、いくら命令とは言っても、見ず知らずの人の為に命張ったり出来ないよね。



…それにしても、“天然人タラシ”って?



私が考え込んでいると、ロッド様が私を見ながら口を開いた。



「アルトラは変わっているところもあるが、いい奴だぞ。頭が切れて聡明だし、魔力も高くて戦に強い。温厚で人当たりも良いしな。

…心配しなくても、きっといい夫婦になれる。」



…どくん。



微かに、心が揺らめいた気がした。


自分の奥底に生まれた淀みの正体は分からなかったが、どこか、胸が痛む気がする。



…?



なんとなく、モヤモヤする。


これが噂の、“マリッジブルー”?



ロッド様は私と王子様の出会いを祝福してくださっているのに、私がこんな気持ちになってたら悪いよね。