ロッド様は目を閉じて、ぽつり、と呟くように口を開いた。



「…姫さんの唇は、俺が簡単に奪っていいものじゃない。」



…!



私が、はっ、と呼吸をすると、ロッド様は目を開き、真剣な瞳で私を見つめながら言った。



「姫さん。一つだけ、契約に“条件”を付けたそう。」



「…“条件”?」



私が聞き返すと、ロッド様はベッドから体を起こして言葉を続けた。



「“この先いくら触れ合っても、心の距離が近づいたとしても、決して主従関係の一線は越えない”……

つまり、“相手に特別な感情は持たない”ってことだ。」







闇夜の静寂が、部屋を包んだ。


ロッド様の声が心の奥へと染み込んでいく。



…私は彼の“主”で、彼は私の“従者”で。


私には、ちゃんと愛すべき人がいる。



「…分かりました。

私は、“姫”として、あなたに力を貸します」



ロッド様は私の返事を聞いて小さく頷いた。



これは、守るべき絶対の掟。


…おそらく、破ることはない。



だって、私もロッド様も、お互いに恋などしていないんだもの。


大人なロッド様が、私を好きになるとも思えない。



「ん、ありがとうな。

今日はもう遅い。姫さんも部屋に戻りな。」



ロッド様は、何事もなかったかのように静かにそう言った。


私は、少しの間の後頷いて、扉の方へと歩いていく。


そして、部屋を出る間際にふと思い出して、ロッド様へと振り返って口を開いた。



「あの…、寝込みを襲うような真似をして、すみませんでした。」



私の言葉に、ロッド様は微かに目を見開いて答える。



「…いや、俺の方こそ無理させて悪かった。

まぁ…キスをある程度身構えてはいたがあんな死にかけるとは思ってなかったな。」