その時、ロッド様が、はっ、と何かに気が付いたような仕草を見せた。



…?



私がロッド様を見つめていると、ふいにロッド様が私の頬にそっ、と触れた。



っ!



「…傷、つけてしまったな。」



ぽつり、と呟かれた言葉に、私は目を見開いた。

優しく撫でる指の感触に体が反応して動けない。


弱々しく瞳を揺らしたロッド様は、どこか悲しげな顔をしていた。



「…かすり傷なので、すぐに消えますよ。そんな顔をしないでください。

無謀なことをしたのは私です。ロッド様がいなければ、どうなっていたことか…。」



私は、苦笑しながら言葉を続けた。



「それに、今さら傷の一つや二つ増えたところで気になりません。

顔の傷を気にするほど、容姿が整っているわけでもないですし…!」



むしろ、ロッド様の綺麗な顔に傷がつかなくて良かった。

城下町にいるであろうロッド様の女性ファンに怒られちゃいそうだもの。


その時、私の頬に触れていたロッド様の指がつぅ…、と顎のラインを撫でた。



「何を言ってる。」



…っ!



彼は、そのまま私の顔にかかっていた髪の毛を、そっ、と手に取った。


ひんやりとしたログハウスの空気を首元に感じる。



「…姫さんは綺麗だ。」







低く艶のある声が耳に届いた。


不意打ちの言葉に、つい顔を赤らめてしまう。


私は、思わず視線を逸らして口開いた。



「…お、お世辞はいいですよ。」



「俺はお世辞を言えるほど器用じゃない。

初めて見た時も綺麗だと思った。」



え…っ?


初めて会った時…って、あの地下牢での話?



「あんなにボロボロで汚い姿を晒したのにですか…?」



「…汚くなんかない。

むしろ、ドレスで着飾った他国の姫より綺麗に見えた。」