**
…ホー、ホー。
フクロウの鳴く声が、夜の樹海に響く。
私は、音を出さないように慎重にツリーハウスの奥の部屋へと向かっていた。
…ギィ…
ゆっくりと扉を開けると、そこにはベッドの上に横たわり呼吸をするロッド様の姿があった。
私は、心の中で手を合わせながら慎重に部屋の扉を閉める。
…ごめんなさい、ロッド様。
寝込みを襲うような真似をして…。
小さく心の中でそう呟いた私は、ゆっくりとロッド様に向かって近づいていく。
窓辺から差し込む月明かりが、ロッド様の整った顔を照らしていた。
…ごくり…。
緊張から、喉が鳴った。
…ロッド様の呪いを浄化するため。
そう、これは決して深い意味などない“事務作業”だ。
世間には、“人口呼吸”とかっていう言葉もあるし。
…ギシ…
私は、ゆっくりとロッド様の顔の横に手を付いた。
…まだ、意識は戻ってないよね…?
“今のうちにロッド様の唇を奪ってしまえば、ロッド様が起きている時にするよりも緊張が半分で済む。”
…という結論に至った私は、必死で胸の鼓動を抑え込みながら距離を縮める。
どきん、どきん…
静かな部屋に、私の胸の音が爆音で響いているような気がする。
…しゅ、集中しろ、私…!
このまま一瞬だけ唇を掠めれば任務成功だ!
と、その時、私はぴたり、と動きを止めた。
…あれ、手って、このままでいいんだっけ?
顔って、傾けた方がいいんだっけ?
息って止めるんだっけ?
…………。
よく考えてみれば、私は恋愛経験などない。
…キスの仕方が分からない…!
緊張だけがピークに達し、私は迷いを振り切って目を閉じた。
───ちゅ。
刹那の間、柔らかなものが唇に触れた。
ロッド様の寝息が一瞬止まった気がしたが、多分気のせいだ。
………これで、いいのかな……?
ちらり、とロッド様を見つめるが、目を覚ます気配はない。
…今のって、ちゃんと浄化出来てるのかな?
そろり、と手を伸ばしてロッド様の胸元を確認すると、痣は消えていない。
…まさか、今のじゃ一瞬すぎた?
私は、おろおろしながらベッドの横で狼狽えた。
…よく考えてみれば、浄化の感覚を感じるのはロッド様なわけで、私は苦しみが消えているのかを察することが出来ないんだ。
ロッド様が起きていれば、話を聞いて体調を伺えるが、この状況ではよく分からない。
……ええぃ!この際だ…!
ごめんなさい、ロッド様!



