その時、私の視界に、剣や槍を持った騎士達の姿が入った。


どの兵士も力強く、動きに無駄がない。



わ…!

訓練中なのかな…?



すると、私が騎士達を見つめていることに気がついたジャナル大臣が、廊下を進みながら口を開いた。



「彼らが、先ほど話した世界でトップクラスの我が国の騎士団です。

皆、魔力と武力に優れた精鋭ばかりなので、姫様は安心してこの国で過ごしてください。」



ジャナル大臣の言葉を聞きつつ訓練の様子を見回していると

青い制服を着ている騎士達の中に、黒い制服を着たクロウさんの姿が見えた。


私は、ジャナル大臣に向かって尋ねる。



「クロウさんだけ制服が違うんですね。

もしかして、彼が騎士長なんですか?」



すると、ジャナル大臣は微かに眉を動かして少し低いトーンで答えた。



「いえ。クロウはノクトラームの騎士ではなく私の直属の部下なので、皆と制服が違うだけです。

…騎士長は他にいるのですが……」



私は、急に口ごもったジャナル大臣に首を傾げる。

すると、彼は言い出し辛そうに、おずおずと信じられないような言葉を発した。



「お恥ずかしい話ですが…。

我が国の騎士長は今、地下牢に投獄されているのです。」



「えっ?」



と…“投獄”?!



私が目を見開いてジャナル大臣を見つめると

彼は微かに目を細めて言葉を続けた。



「騎士長は並外れた魔力と武力を持つ男だったのですが、力を持つゆえ、戦い好きで、手に負えない獣のような二面性を持っていました。

そして先日、ついに彼は私の暗殺を図ろうとしたのです。」






“暗殺”…?!



ぞくり、と背筋が震えた。


ノクトラームの騎士長が、大臣に謀反を起こしたってこと…?



ジャナル大臣は、困ったような表情を浮かべながら続ける。



「私は昔から騎士長とは折り合いが悪く、意見が衝突することが多くて…。

奴は、気に入らなければ見境なく人を殺めるような獣です。姫様も、決して地下牢には近づかないでくださいね。」



…!


私は、大臣の言葉に真剣な面持ちで何度も頷いた。



この国の騎士長は、そんなに凶暴で自分勝手な人なんだ…?


力を持つゆえに、気に入らない人を力でねじ伏せようとするなんて、信じられない。



そういえば、ジャナル大臣は髭こそ立派だが後頭部の方はさっぱりツルツルだ。


騎士長と揉め続けてストレスが溜まったせいなのかな。



「…お辛かったんですね…。」



「え?」



一人、ジャナル大臣の毛根の苦しみを察した私は、うんうんと頷きながら、同情するような瞳で彼を見つめた。