ラントにつられて、ぱっ、と、顔を上げると、大木の幹の中間付近に、ゆっくりと顔のようなものが浮かび上がってきた。
ひぃっ!
驚いてつい立ち上がると、顔はだんだん
はっきりとしてくる。
その顔は、厳つさは変わらないが昼間見た時よりも穏やかな目つきで私をとらえた。
『…セーヌ、初めまして。
呪いを解いてくれて、感謝するガル。』
…“ガル”?
多分、ヴェルは、語尾の“ガル”を聞いて名前をつけたのかな?
私は、ガルガルを見上げながら口を開いた。
「お役に立ててよかったわ。
えっと…ちゃんと呪いは解けた?」
『…厳つい顔は、生まれつきガル。
もう、完全に元に戻ったガル。』
私は、ほっ、としてガルガルを見つめた。
すると、ガルガルは小さな枝をゆっくりと私に伸ばし、頬を撫でた。
昼間とは違う優しい感触に驚いていると、ガルガルは低いトーンで私に言った。
『…頬に傷をつけて、すまなかったガル。
痛かったガル…?』
恐る恐る、という感じのガルガルに、私は笑いかけて答えた。
「大丈夫よ、気にしないで。」
…ガルガルって、体は大きいけど、すごく優しくて繊細なんだな。
ガルガルは、私の言葉に微かに顔を緩ませると、枝を引いて“何か”を私に差し出した。
手に取った“何か”を見つめてみると、それは細やかな装飾が施された翡翠色の宝石だった。
紋章のようなものが刻まれている。
「…?何だ、それ。」
ラントが、私の手元を見て不思議そうにそう呟くと、ガルガルはゆっくりと口を開いた。
『何十年か前に小鳥達が運んできた宝石ガル
お礼とお詫びに、それをあげるガル。』
…!
私は、キラキラと輝く宝石を見つめてガルガルに答えた。
「ありがとう…!大切にするわ!」
ガルガルは、私の言葉に優しく微笑むと、ミシミシと幹を鳴らしながら普通の大木へと戻っていった。
その様子を見つめていた私とラントは、月明かりに照らされるツリーハウスが目に入った。
二人の間に沈黙が流れる。
きっと、お互いが同じことを思って、心配しているんだということは、空気から何となく察することができた。
…ロッド様…、大丈夫かな…。
その時、ラントが、ぼそ、と呟く。
「…もし、ロッド団長がこのまま目覚めなかったら、セーヌはここにいてくれ。
ヴェルと一緒にいれば、ジャナル達が来てもどうにか追い返せるだろ。」



