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『セーヌ。ロッドの具合はどうじゃ?』


「だいぶ落ち着きました。

まだ意識は戻りませんが、首元まで広がっていた痣は小さくなっています。」



時計の針が午後八時を指した頃。


ロッド様がツリーハウスに運ばれてから、ずっと手を握って浄化を続けた甲斐もあり、ロッド様の体調はだいぶ回復した。


私は、ツリーハウスのリビングでヴェルと向き合い、言葉を続ける。



「ヴェル、ありがとう。

今日は、本当にここに泊まっていってもいいの?」



『あぁ。手負いの奴らを樹海に放るわけにはいかない。ましてや、あんたらは、わしとガルガルを守ってくれたんじゃ。

セーヌ。ガルガルの呪いを解いた上に、わしの命を助けてくれて、ありがとう。』



私は、ヴェルに笑い返しながら答えた。



「いえ…!私は咄嗟に無謀なことをしただけで、浄化のことも自分の出来ることをしただけです。」



そして、私はツリーハウスの中を見渡し、ヴェルに尋ねる。



「あの…ラントはどこに?

ラントの傷は大丈夫なんですか?」



そう。


私はずっとロッド様につきっきりで、あれからラントの姿を見ていない。

ツリーハウスの中にもいないようだ。



すると、ヴェルは窓の外を見ながら私に答えた。



『あの若造なら、わしの治癒魔法で傷を塞いだ後、一人で外へ出て行ったわい。おそらく、ガルガルの所にいるじゃろう。

…だか、少し様子が変だった気がするのぉ』



…ラントの様子が変…?



私は、ヴェルに言われた通りツリーハウスを出て、木のはしごを降りて行った。


ざわざわと樹海の木々が風に揺れて音を立てる。


どこか嫌な胸騒ぎがするようで、落ち着かない。


タン、と地面に降り立つと、ツリーハウスのすぐ側の大木の根元に、一つの影が見えた。


赤い短髪が、淡い月明かりに照らされている



「ラント…!」



私が、彼の名前を呼んで駆け寄ると、ラントは、はっ、として私を見た。


そして、開口一番、私に向かって真剣な顔で尋ねた。



「セーヌ!ロッド団長は無事なのか?!」



「!うん、大丈夫…!もうだいぶ呪いは浄化したよ。」