…っ!



すると、ジャナル大臣は、ふっ、と笑みを消し、ばさり、とマントを翻した。



「…そうですか。

なら、仕方ありませんね。」



そして、私達に背中を向けると、クロウに小さく指示を出す。



「…クロウ。必ず姫様を連れてくるんだ。他の奴らは斬っても構わん。

いいな?後は任せたぞ。」



「………はい。」






私達が、はっ、とした、その時。

ジャナル大臣は魔力を放出し、私たちの前から一瞬のうちに姿を消した。



…また、逃げられた…!


ガルガルは魔法をかけられたままなのに…!



その場に残ったクロウは、微かにまつ毛を伏せると、何かを決心したように私達に向き直った。



…チャキ…



クロウの手が、腰の剣に伸びる。


ラントは素早く身構え、敵を鋭く睨みつけた



その場の空気が、一瞬で変わる。



「…姫さん。」



ロッド様が、私の耳元で囁いた。



「ガルガルにかけられたのが、呪いの魔法なら、姫さんが浄化出来るかもしれない。

俺とヴェルがガルガルを引きつけているうちに、出来る限り浄化してみてくれないか」







私が、ガルガルの魔法を…?



…確かに、今ガルガルにかけられているのは普通の攻撃魔法じゃない。


ジャナル大臣は、呪いの魔法を得意としているから、ガルガルにかけたのが呪いの魔法だという確率は高い。



「分かりました…!やってみます!」



私が、はっきりとそう言い切ると、ロッド様は小さく頷いてラントに声をかけた。



「ラント!クロウはノクトラームの騎士じゃない。城での時とは違う。反撃していい!

そっちは任せたぞ。姫さんを守れ!」



「!はい!」



ラントは、返事をすると共に剣をすらり、と抜き、クロウに向かって構えた。


ラントの檸檬色の瞳が、魔力に共鳴して輝きを増す。



…!


始まる…!



私は緊張感が高まる中、ロッド様に向かって口を開いた。



「ロッド様、気をつけて下さい。

魔力を使って戦いすぎると、また呪いが進行してしまいます…!」



すると、ロッド様は、はっ、としたように私を見た。


そして、ふっ、と小さく笑うと、私をぎゅうっ、と抱きしめる。






それは一瞬の出来事で、ロッド様はすぐに私から離れると、すっ、と私の前に跪いた。


綺麗な碧の瞳が淡く光っている。



「そんな不安げな顔をするな。

今ので、力を貰えた。もう大丈夫だ。」



ぽん、と優しく頭を撫でられ、ロッド様の大きな手が離れていく。


剣を手にする広い背中は、呪いのダメージなど感じさせないほど凛としていた。