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「わぁ…長い螺旋階段ですね…。」
城に入り、私の目にまず飛び込んできたのは
透明な壁で囲まれた、天まで届くほどの長い螺旋階段だった。
ジャナル大臣は、私の言葉に廊下を進みながら答える。
「あの階段は城の最上階の部屋へと通じています。
姫様のお荷物はその部屋に運びましたので、どうぞお好きにお使いください。」
えっ!
最上階の部屋を私の部屋として用意してくださったんだ?
大臣は、「部屋からはノクトラームの夜景が綺麗に見えますよ。」とにこやかに微笑む。
夜景かぁ…。
私は、これからずっと素晴らしい景色を眺めながら生活出来るんだ。
ありがたいな…待遇が良すぎだよ。
その時
私は、ふとあることを思いついてジャナル大臣に尋ねた。
「あの、私の婚約相手の王子はどこにいらっしゃるのですか?
一度も話したことがないので、ご挨拶をしたいのですが…」
すると、ジャナル大臣はこちらを向かずに
さらり、と答えた。
「王子のアルトラ様は、現在、この城におりません。
隣国に視察に出ていますので。」
え?
王子様、お城にいないんだ?
…隣国に自ら視察なんて、とてもお忙しくて勉強熱心な人なんだなぁ…。
私は、大臣に向かって言葉を続ける。
「では、先に王様と王妃様にご挨拶をします。
玉座に案内していただけますか?」
今日から私の義理の父と母になる人…。
き、緊張する…。
そんなことを思った、次の瞬間
ジャナル大臣は、カツカツと廊下を進む足を止めずに答えた。
「王と王妃も、現在城におりません。
お二人で、国外れの荒れ地の公共事業の視察に出向かれた後、南の国のバカンスへと旅立たれました。」
「えっ!」
王様達までお城にいないの?!
…二人揃ってご旅行なんて、仲が良いんだな
「…私の国では、王が国を離れることなど考えられないのですが…
ノクトラームではこれが普通なのですか?」
すると、私の問いかけにジャナル大臣はちらり、とこちらを向いて口を開いた。
「はい。我が国は世界でもトップクラスの騎士団がおりますので、敵国に攻められても問題ありません。
王が不在の間の政治はすべて私が担っておりますし、心配はご無用です。」
そ、そんなもんなんだ。
やっぱりノクトラームはすごいんだなぁ。
王家の人がいなくても政治が成り立つなんて。



