“ヴェル”…?
ロッド様がそう叫んだ、次の瞬間だった。
シュゥゥッ!
一つの小さな影が、樹海の葉を揺らしながら幹を伝って滑り降りてきた。
っ!
ドン!と地面に降り立ったその姿に、私は息を呑む。
ラントが、私の隣で小さく呟いた。
「こ…小人のジジイ……?!」
『ジジイ?!無礼者ッ!わしはドワーフじゃッ!』
目の前に現れた“彼”は、いきなりラントに向かって腕を突き出した。
そこから、ラントに向かって突風が吹き出す。
「っ?!」
ラントはすごい勢いで吹き飛ばされ、地面にズササ…!と倒れ込んだ。
な、何が起こったの…?!
私が状況をつかめずにいると、ロッド様が目の前の彼に向かって口を開いた。
「ヴェル、そう怒らないでくれ。ラントは正直すぎるところがあるんだ。
…久しぶりだな。元気だったか?」
すると、ヴェルと呼ばれた彼は、にっこりと笑ってロッド様を見上げた。
『おー、おー!本物のロッドじゃったか。久しぶりじゃなぁ!
連れを攻撃して悪かったのぅ。あんなに礼儀がなってない若造は初めてで。』
楽しそうにロッド様と話すおじいさん。
彼の背は驚くほど小さく、歳は八十を超えているように見える。
私がぱちぱちと瞬きをしていると、むくり…と起き上がったラントが、眉を寄せながらロッド様に尋ねた。
「ロッド団長。その…“ジイさん”は何者なんですか?
まさか、団長の言ってた“知り合い”って…」
すると、ロッド様はおじいさんと私達を交互に見ながら口を開いた。
「あぁ、そうだ。この人が、俺の古くからの“知り合い”。
名前は“ドヴェルグ”。この樹海に住むドワーフだ。」
「「!」」
私とラントは、目を見開く。
…ドワーフ?
ドワーフって、よくおとぎ話の本に載っている小人のこと?
本当にいたなんて…!
初めて会った…!
私が目を輝かせていると、ドヴェルグさんはじぃっ、とこちらを見つめながら口を開いた。
『あんたらは、ロッドの連れじゃな?
無礼な若造がラントで…そちらの姫君はセーヌ、と言ったか?』
えっ!
「ど、どうして私達のことを知っているんですか?」
私が驚いてそう尋ねると、ドヴェルグさんは私を見つめて答えた。
『樹海に飛んでくる小鳥達が教えてくれるんじゃ。
ノクトラームで起きた謀反の噂も耳に入っておったよ。』
!
小鳥達から情報を…?
すごい!
さすが、ドワーフ…!
ドヴェルグさんは、キリッ、と笑って言葉を続けた。
『改めて…わしはこの樹海に住むドワーフ、ドヴェルグじゃ。
“ヴェル”、とでも好きに呼んでくれ。かしこまる必要はない。』



