あまりの衝撃に、言葉が出ない。


言いたいことが頭の中をぐるぐるして、私は、ぱちぱちとまばたきをすることしか出来なかった。



…そ、そりゃあ、密着度が浄化の力の増減に関わっているんだとしたら、キスをすれば呪いが解けるかもしれないっていうのは理屈的に筋が通ってるけど…。


私が…ロッド様と?



ちらり、とロッド様の方を盗み見ると、彼は眉を寄せて何かを考え込んでいるようだった。


私はロッド様と出会った日から、手をつないだり抱きついたりしたわけだけど…キスとなれば今までとは違う。


整った顔つき。

さらさらの漆黒の髪。



…ロッド様とキスをする距離まで近づくなんて心臓が爆発しちゃうよ。



しかし、私はそこまで考えて、はっ、とした


ロッド様からしてみたら、早く呪いを解きたいはずだ。

私が、キスの一つや二つを渋っている場合じゃない。



…するべき…なんだよね。



そもそも、私は躊躇していい立場じゃない。



と、その時

私の肩に、ぽん、と、手が置かれた。



え…?



ふっ、と見上げると、目の前にはロッド様の綺麗な碧い瞳。


ロッド様は、私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。



「姫さん。俺は今まで通り、ただ浄化をしてくれるだけで十分だ。

姫さんは女の子なんだから、そういうことは無理にしなくていい。」



…!


ロッド様…。



私の心の中では、まだ迷いが消えなかった。


ロッド様は、優しく目を細めて私から離れる


そして、話題を変えるようにラントを見ながら言った。



「…さ、食事を終えたら出発するぞ。

さっさと荷物をまとめろ。」



ラントは、それを聞いてロッド様に尋ねた。



「今日は、このまま森を抜けて、隣町へ向かいますか?

この先には、公道がありますよね?」



すると、ロッド様は真剣な顔をして腕を組みながら「いや、」と言って言葉を続けた。



「城の周りの町は、ジャナルの手の者が大勢いるかもしれない。今の俺たちは、あまり目立たない方がいいだろう。

このまま森の奥へと入って、“人喰いの樹海”
へ向かおう。」



「「“人喰いの樹海”…?」」