私は、つい動揺して、手に持っていたパンを落としそうになった。
ら……
ラントに気付かれてた…っ!
ちらり、とロッド様を見ると、彼は少しも動じていない。
…そう。
私とロッド様は城を出た日から、外套に包まって野宿をする間、浄化を目的に手を繋いで寝ているのだ。
浄化以上の意味などない行為ゆえ緊張はしないが、それでも少し意識してしまうのが本音なので、こっそり繋いでいたつもりだった。
まぁ、あの熱狂的ロッド様信者のラントが、気付かないわけないよね。
その時、ラントが不思議そうに私に尋ねた。
「セーヌの浄化の力って、相手に触れることで反応するんだよな?」
「うん、そうだよ。」
「それって“密着度”とかも影響するのか?」
えっ!
私は、スープをこぼしそうになる。
今まで聞かれたことのない質問に、私は戸惑いながら答えた。
「私は力を込めてるだけだから、痛みが消えていく感覚はよく分からないの。」
すると、それを聞いたラントは「ロッド団長の感覚は、どうなんですか?」とパンを食べていたロッド様に向かって尋ねる。
ロッド様は少し考えた後、さらりと答えた。
「…んー、少なからず関係はあるかもな。
手を繋いだ時よりは、城の庭で姫さんに浄化してもらった時の方が体が軽くなるのが早かったような気がする。」
へぇ…。
私はロッド様に触れているだけで、痣の色や顔色を見ることしか出来ないから、全然知らなかった。
城の庭で浄化した時って、私がロッド様を抱きしめた時ってことだよね。
すると、何かに気がついたような様子のラントが、はっ!として声を上げた。
「そうだ。」
「?何、ラント。」
私が、きょとん、として首を傾げると、ラントは私を真っ直ぐ見つめて爆弾発言を発した。
「いっそ、キスでもしてみれば、ロッド団長の呪いは簡単に解けるんじゃねーか?」
「「っ!!」」
その時
今まで、ずっとラントの発言には無反応だったロッド様が「ごほごほっ!」と咳き込んだ。
私は、つい頬を赤らめて口を開く。
「い、い、いきなり何を…!」
「だって、密着度と関係があるなら、可能性はゼロじゃないだろ?」
た、確かにそうだけど…っ!
ロッド様も動揺を押さえ込むように、額に手を当てて呼吸を整えている。
ラントは、しれっとした顔で言葉を続けた。
「気持ちの込もってないキスなんて、一種の“事務作業”みたいなもんだろ。」
「じっ……………?!」