「姫さん、ラント。朝飯が出来たぞ。

ん、冷めないうちに食べな。」



ノクトラームの城を出て一週間。


私たちは東に向かって森の中を進んでいた。


城を出てすぐ、ロッド様が伝書鳩に魔法をかけ、隣国に視察に出ている王子様にノクトラームの現状を伝えると、その日の夜には王子様から返事が届いた。


ノクトラームの港町まで船で移動を始めた、との連絡から、私たちは東にある港で王子様と合流することになったのだ。


野宿をするのは初めてで、最初の三日は睡眠不足だったが、やっと最近慣れてきた。


ロッド様は毎日、旅に出る際に持ってきた食料と森に生えている植物で食事をつくってくれている。

その味は、簡単に作れるとは思えないほどのクオリティだった。


私は、卵とベーコンが乗ったパンを一口食べて目を輝かせる。



「美味しい…!

ロッド様は、本当に何でも出来るんですね」



私とラントが、もぐもぐと朝食を頬張っていると、ロッド様は自分の分のパンを口に運びながら言った。



「俺は、騎士団の宿舎じゃなく城下町の家で一人暮らしだったから、自炊には慣れてるんだ。

姫さん達の口に合ってよかった。」



ラントが、ロッド様に向かってキラキラした瞳で言った。



「ロッド団長は、本当に素晴らしいお方ですね!

非の打ち所がないです。いくらでも食べれます」



…確かに、ロッド様は何でも器用にこなす。



料理、洗濯、服の繕い。

私も一緒にやってはいるが、ロッド様はまるで“主婦”並みの腕前だ。


まぁ、今の状況からしてもラントは私の二つ下で、ロッド様は五つ上だから…

実質、私たちの“保護者”的な感じだけど。


私が、ロッド様を見つめながらそんなことを考えていると、ふいにラントが私に向かって口を開いた。



「ところで、ロッド団長の呪いはいつ全部解けそうなんだ?」



その言葉に、私はためらいがちに答える。



「実は、今までずっと浄化し続けてるんだけど、呪いの元凶にまで浄化の力が届かないみたいなの。

…まだ、時間がかかるかもしれない。」



城を出た日から毎日浄化をさせてもらっているが、一向に呪いの痣が消える気配がないのだ。


色を薄くしたり、ロッド様の苦痛を和らげることは出来るのだが、どうしても痣自体を消すことが出来ない。


…私の力が及ばないせいなのか、ジャナル大臣の魔力が強力なせいなのか、それすらも分からない状態だ。



その時、ラントが驚いたように言った。



「は…?!

毎日手ぇ繋いで寝てるくせに、まだ浄化しきれてなかったのかよ!」



「「!」」