男性はにこやかな顔で私の前に来ると、黒いヒゲを触りながら私に向かって口を開いた。



「やぁやぁ、よくおいで下さいました。

姫様、私を覚えていますかな?この国の大臣のジャナルでございます。」



「えぇ、覚えていますよ、ジャナル大臣。

わざわざ出迎えてくださって、ありがとうございます…!」



大臣は、藍色の瞳を優しく細めて私を見た。


そう。

この男性こそが、王の代わりと言って、私とこの国の王子の政略結婚の話を進めた大臣。


何度も城で顔を合わせたことがあるから、しっかりと記憶に残っている。


大臣は、私の半歩後ろに立っていたクロウさんに向かって声をかけた。



「クロウ、もうお前の仕事は終わりだ。

馬車を戻しておいてくれ。頼んだぞ。」



「…はい。」



クロウさんは大臣に深く頭を下げて、再び馬車へ乗り込もうと、私からくるりと背を向ける。



「あ、クロウさん!

お迎えに来てくださって、どうもありがとうございました。」



私がそう呼びかけると、クロウさんは一瞬こちらを振り返った。


しかし、その顔には感情がなく

少し眼を細め、私を軽く睨むかのようだった。



…?

わ、私、何か悪いことをしたのかな…?



ふと、そんなことを考えたが、思い当たる節など無い。


固まって目をぱちぱちとさせているうちに、クロウさんを乗せた馬車はどんどん私から遠ざかって行ってしまった。


その時

馬車を見つめる私に、ジャナル大臣が優しく声をかけた。



「では、姫様。これから城を案内いたします。

荷物は、全て部屋に運んでありますので。」






あ、そうだ。

確かクロウさんが、城に着いたら大臣が案内するって言ってたよね。


私は、大臣の言葉に頷いて、大きな門に向かって歩き始めたのだった。


そして私は、大国“ノクトラーム”の違和感の数々を目の当たりにすることになるのです。