私は草原の真ん中へと進み、腰を下ろした。
爽やかな風が頬を撫で、花達のいい香りに心が癒される。
…さっきまで身の危険にさらされていたなんて、嘘みたい。
と、その時、背後から、サク…、という足音が聞こえた。
そして、低く艶のある声が私を呼ぶ。
「姫さん。…こんな所にいたのか。」
「!」
はっ、として振り返ると、優しげな碧い瞳が私を見つめていた。
漆黒の髪が、花の香りを運ぶ風に吹かれている。
私は、ぱっ、と立ち上がって口を開いた。
「ロッド様!どこへ行っていたのですか?」
「…それはこっちのセリフだ、姫さん。」
草を踏み分けて私の方へと歩み寄ってきたロッド様は、私の目の前で立ち止まった。
二十センチ程高い位置にあるロッド様の整った顔に、私はつい見惚れる。
…ロッド様をちゃんと見たのは、初めてだ。
その時、私は、はっ、と思い出して口を開いた。
「ロッド様。上着を貸していただいて、ありがとうございました。
この服も、とても素敵です。大切に着させていただきます…!」
すると、ロッド様は私から上着を受け取って羽織りながら「あぁ。気に入ってくれたのなら良かった。」と静かに答える。
少し落ち着かない様子でそわそわしているロッド様に、私は首を傾げた。
…?
どうしたんだろう。
そういえば、私を探して来てくれたんだよね
もう出発の準備が整ったから、迎えに来てくださったのかな…?
ロッド様は、何かを言いたげに私の顔をちらちらと見つめていた。
「あの…私の顔に何か付いていますか?」
私は、そこまで言って、はっ!とする。
まさか、抜け道を通った時のススやホコリ、蜘蛛の巣がついたまま…?!
つい焦って頬を手で覆うと、ロッド様は低く呟いた。
「いや、そうじゃない。姫さんに礼を言いに来たんだ。
…まだ、ちゃんと言えてなかったからな。」
「… “礼”…?」
すると、ロッド様は少し顔を伏せながら呟いた。
「…少し、かがんでくれないか?」
え…?
私は、言われるがままに膝を曲げて軽く頭を下げる。
こ、こうかな…?
すると、ふわり、と私の頭にロッド様が何かを乗せた。
「…っ?」
手で感触を確かめながら、私は視線を上に上げる。
すると、私の視界に映ったのは、真っ白で小さな花の冠だった。
…!
これって……



