魔力がぶつかり合ったことによる衝撃波が辺りに広がる。


ロッド様は、瞳を輝かせながらふわりと空を飛んで庭の隅に着地すると、トッ、と地面に優しく私を降ろした。



「急に抱き上げて悪かった。怖くなかったか?」



私は、ロッド様と目が合った後、にこりと笑って答える。



「いいえ、怖くはないです。空を飛ぶのは初めてですが、すごく楽しいですね!

自由に飛べるロッド様が羨ましいです。」



目を輝かせて私がそう言うと、ロッド様は微かに苦笑しながら答えた。



「そうか。心配する必要なかったな。

そう言えばあんたは、姫らしくない姫さんなんだった。」



“姫らしくない姫”?



「…それって喜んでもいいのでしょうか?」



「あぁ、褒め言葉だ。いい意味で言った。」



私は複雑な思いを抱えながらロッド様を見た。

すると視界の端に、藍色の瞳の男性が見える。



…!


あれは、ジャナル大臣!



私の視線の先にいる人物に気がついたロッド様は、すっ、と真剣な表情を浮かべて口を開いた。



「姫さんはここにいろ。怪我はさせない。

…すぐにカタをつけるから、いい子で待ってな。」



低く囁かれた言葉に、私は大きく頷いた。



ロッド様の呪いが進行する前に、戦いが終わればいいんだけど…。



落ち着かないまま城の庭を見渡すと、そこには城の騎士達が集まってきていた。


やはり全員操られているようで、焦点が合っていない。

私達を捕らえ、ロッド様を始末することしか考えていないようだ。


ロッド様は、すっ、と私に背を向けて、一歩前に進んだ。

そして、眼前の敵を静かに見つめている。


その時、ジャナル大臣が高々に声を張り上げた。



「ノクトラームの騎士達よ、開戦だ!

反逆者と姫を捕らえろ!」






騎士達は声を聞くや否や、すっ、と剣や槍を構えた。

矛先は全てロッド様に向けられている。


ロッド様は動じることなく、静かに騎士達を見つめたままだ。


騎士達は一斉に地面を蹴って距離を縮める。



…!


ロッド様は、地下牢を出たばかりで武器がない。


普段なら魔法で攻撃も出来るんだろうけど…

呪いに蝕まれた今の体じゃ、魔力の消費はすごく負担になるはずだ。


今は一時的に呪いの力を抑えているだけだもの。


私は、ロッド様の背中を見つめながら祈るように、ぎゅっ、と手のひらを握りしめる。


と、次の瞬間だった。



…シュンシュンシュン…!



どこからか何かが風を切る音が聞こえたその時

ロッド様と騎士達との間の地面に、一本の剣が、ドッ!と突き刺さった。



!!



その場にいた全員の動きが止まった瞬間

聞き覚えのある声が庭に響いた。



「ロッド団長!ご無事ですか!!」