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タッタッタッ…!


息を切らしながら森を進む。



…あれ…?


確か、こっちの方だったと思うんだけど…?



私は、ノクトラームの城を出て行った“彼”
を追って走り続ける。


ガサガサと草木を分けて進み、辺りを見回した。


すると、視線の先に開けた場所があることに気がつく。



…!


あそこは…。



ふらり、と導かれるようにして、その場所へと惹きつけられていく。


小鳥のさえずりが耳に届いた。



…ザァッ!



木々をくぐって、森を抜けると、風が辺りを吹き抜けた。


草木がその風に吹かれて揺れる。


そして、草原の中心には、漆黒の髪の彼の姿があった。



…!



目が合った瞬間、時が止まる。



「…姫さん…。」



彼が、小さく私を呼んだ。


とくん、と小さく胸が鳴る。


私は、サクサク、と草原を進み、彼の側へと腰を下ろした。



「ロッド様。私はもう、“姫さん”じゃありませんよ。」



第一声、そう伝えると、彼は、ふっ、と微笑んで私に言った。



「…あぁ、そうか。

それを言うなら、俺だってもう“ロッド様”
じゃないぞ。騎士長はもう引退したからな」



…!



穏やかな空気が二人の間に流れた。


爽やかな風が草原を撫でるように吹く。



「…胸の傷はもう大丈夫なんですか?」



「あぁ。傷はすっかり塞がった。

…魔力は完全に消えちまったけどな。」



苦笑する彼に、私は頭の中にジャナルの城でのことを思い浮かべた。


…あの時、瀕死のロッド様を救うため、王様が治癒魔法でなんとか命を繋いでいた。

しかし、完全に使い切ってしまったロッド様の魔力は、体力が回復したところで二度と戻らないと分かったのだ。


ロッド様は「魔力がなくても、剣は振れる」と笑った。