泣きそうになっている彼女に、僕までつられそうになった。
そんな風になっている事を悟られたくなくて、僕は気持ちを隠すように彼女の頭を優しく撫でる。
「さ、そんな顔しないで。
…王子の“アルトラ”としては、これでお別れかもしれないけど、旅仲間の“アル”としてはいつでもこの城で君の事を待ってるから。」
強いくせに泣き虫の彼女は、僕の言葉に無言で何度も頷いた。
僕は、トン、と彼女の背中を押す。
「行って、セーヌさん。」
僕の言葉に、彼女は目を閉じた。
ゆっくりと、僕の言葉を噛みしめるように頷いた彼女は、僕の手から離れて部屋を出ていく。
遠ざかる背中に、僕は微かに目を細めた。
…僕が出来るのはここまでかな。
ふぅ…、と小さく息が漏れる。
窓枠へと頬杖をつくと、城の門へと続く橋を少女が走っていくのが見えた。
無意識のうちに、頬が緩む。
「………とんだお人好し王子だな。」
「!」
そんな声が聞こえたのは、彼女の姿が見えなくなった時だった。
すっ、と後ろを振り返ると、そこには扉に寄りかかるように立つ一人の騎士がいた。
「ラント君…」
僕が彼の名を口にすると、彼はゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「あんた、さっきロッド団長にも声かけてたろ。
いいのか?本当にセーヌとの政略結婚を解消しても。」
「…よく見てるね。
いいんだよ、これで。」
僕は、ぐーっ、と背伸びをしながら後頭部で手を組んだ。
「…恋愛なんて興味がなかったけど、禁断の恋ってやつにはそそられるね。
はー、僕もメイドと恋でもしてみようかな」
「あんたが言うと冗談に聞こえないからやめて下さい。」



