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《アルトラside》



…コツコツコツ。



見慣れた、赤い絨毯。

装飾の施された白い壁。



「アルトラ王子!おはようございます!」



「うん、おはよう。」



威勢の良い訓練兵。

武術の練習に打ち込む騎士達。



そんなノクトラームの日常が戻ってきたのは、つい二週間前のことだった。


ここは、マガイモノなんかではない、本物のノクトラーム城。


数ヶ月ぶりに王子の制服へ袖を通した僕は、ある部屋に足を運ぶ。


長い螺旋階段を上り、その先に唯一ある部屋の前で足を止めた。



…コンコン。



扉をノックすると、中から鈴のような声が聞こえる。



「はい、どうぞ…!」



キィ…、とゆっくり扉を開けると、綺麗な橙色の瞳と目が合った。



「セーヌさん、おはよう。」


「おはようございます。」



優しく笑い返してくれた彼女に、僕は尋ねる。



「傷の具合はどう?」


「もう、すっかり治ったみたい。

本当に、色々ありがとう。あの時アルが来てくれなかったらどうなっていたことか…。」



彼女の言葉に、僕は二週間前のことを頭に思い浮かべる。


ジャナルの城での激闘の末、床の陥没に巻き込まれたセーヌさんとロッドの居場所を魔法で突き止めたあの時。


父上の力を借りて彼らを助けに向かった僕の目に映ったのは、微動だにせず倒れる幼馴染みと、その隣で泣き崩れる彼女の姿だった。


…あの時の光景は、二度と思い出したくないな。



僕は、そんなことを考えながら彼女に声をかける。



「少し、いいかな。

やっと医務室のベッドが空いたからさ。君とゆっくり話す時間が出来たんだ。」



その言葉の意味に気がついた様子の彼女は、安堵の表情を浮かべる。


その顔は、ただ安心したというだけではなくもっと別の感情が込もっていることに気が付かない僕ではない。