泣いているせいで、声が上手く出ない。


ロッド様の息は、どんどん小さくなっていった。

手に取った花冠は、私の願いも空しく枯れていく。


白い小さな花は茶色くなっていき、それはまるで、ロッド様の未来が消えていくようだった。


音は、何も聞こえない。


光も、届かない。



「…姫さん…気付いたか…?

ここは、俺達が“初めて出会った場所”だ。」



え…?



呼吸の合間に聞こえた彼の声に顔を上げると、そこは“地下牢”だった。


私たちの隣には、太い柱。


頭上の崩落を免がれたのは、この柱のお陰だったらしい。


…初めて会った時、ロッド様はこの柱の根元で鎖で繋がれていた。


私の浄化を拒んだ彼は、ジャナル大臣の話どおりの獰猛で戦好きの騎士長に見えた。


でも、私の手を引いた彼の手は温かく、私を庇う背中は大きかった。


いつも、この人は自分を犠牲にして誰かを守ってきた。


…そんな彼を唯一救えるのが、私だったはずなのに。



「…ごめん…なさい……」



涙とともに溢れた言葉は、彼を困らせるだけだった。


ロッド様の優しい眼差しが、今の私には何よりも痛い。



「…姫さん。」



ロッド様の声が、耳に届いた。



「…何ですか…?」


「最後にもう一つ…あんたに伝えていいか…?」



“最後”


ずきり、と胸が痛む。


私は、彼の体温を取り戻そうと、ロッド様にしがみついた。

涙のせいで、ロッド様の顔がよく見えない。


彼は、力を振り絞るように私の手を握っている手に力を入れた。


手を繋いだまま、ロッド様は私の頬に繋いだ手を触れさせる。


わずかに温もりが感じられる手に頬を寄せると、ロッド様は私を見つめたまま、一言呟いた。



「…………好きだ…。」



…!



しぃん、とした中で、彼の声だけが響いた。


彼の呟いた言葉は、たった一言だったが、私の涙腺を壊すには十分だった。


止まらない涙。


消えゆく体温。


閉じる瞳。


言葉に出来ないぐちゃぐちゃした気持ちが溢れた。


花冠は、私の手の中で枯れ落ちる。


体の力が抜けて、頭の中が真っ白になった。



「……ロッド……様……」



私の声は、地下牢に小さく響いた。


しかし、それに返事が来ることはない。


私が、ロッド様の手を握りしめた

次の瞬間だった。



…スッ…!



地下牢に、一筋の光が差し込んだ。


思わず涙が止まる。


ふっ、と顔を上げると、遠くから見覚えのある翠の光が視界に映った。