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「……っ、ん……。」
ふっ、と目を開ける。
視界が霞んで、よく見えない。
辺りは真っ暗で、何も音が聞こえない。
…ここは…?
私は、一体……
おもむろに視線を自分に向けた瞬間、私の目に映ったのは、自身の服にべっとりとついた血の染みだった。
「…っ!!!」
驚きと恐怖で喉が詰まる。
何が起こったのか分からぬまま、混乱状態に陥った。
これは…私の血じゃない。
確か、床の崩落に巻き込まれて……
その時、私は血の気がさっ、と引いた。
冷水を浴びせられたように体温が下がる。
…落ちていく私の体を抱きとめたのは、ロッド様。
この血は、彼の………!
その時、暗がりに慣れてきた目が私の隣に倒れこむ人影をとらえた。
「ロッド様!!!」
私は反射的に彼へ縋り付き、顔にかかる漆黒の髪を震える手で払う。
彼の瞳は閉じられていた。
しかし、かろうじて息はあるようだ。
彼の青い制服はボロボロで、白いシャツは大きく切り裂かれ、赤い血で染められている。
「ロッド様!ロッド様、起きてください!」
必死に、彼へ呼びかける。
肩を揺すり、冷たい地面に横たわる彼のシャツへ顔を埋めた。
「……っ……」
その時、微かに頭上から呼吸の音が聞こえた。
ばっ!と顔を上げると、ゆっくりと碧い瞳が開かれる。
彼の目が私をとらえた瞬間、私は言葉が出なかった。
弱々しく光る瞳。
ぼんやりと焦点が定まっていないように彼は私を見つめた。
「ロッド様!ロッド様!!
私の声聞こえますか…!」
私は、彼の体を抱きしめる。
以前のように、彼の手を握り、必死に体をくっつけた。
しかし、彼の瞳に淡い光は灯らない。
胸の傷から流れる血も、止まらなかった。
…私は、もうロッド様の傷を癒せない。
なぜなら、今の彼の傷は呪いによるものではないから。
彼の痛みを取り除く力は、私にはない。
無力感が込み上げた。
すると、ロッド様が小さく呟く。
「…姫さん、よかった…無事…みたいだな。
ヴェルに教わった魔法が…最後に役立ってよかった…。」



