忘れかけていた、淀みのない軽やかな体の感覚。

自身の魔力が、体の奥底から湧き上がってくるような気がした。


俺は、剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がる。


ぽたぽたと制服から血が滴り落ちた。



…俺の呪いが解けたのは、ラントが水晶を割ったからだ。


姫さんも、ラントも、期待に応えてくれた。

アルトラだって、俺を見捨てないで隣で戦ってくれている。



…ここで折れてたまるか…


“騎士長”の俺が、負けてどうする…!



ダン、と強く足を前に出した俺は、そのままジャナルに向かって腕を突き出す。


黒い髭を蓄えた奴の顔が引きつった。


王の魔力が城を包んでいるせいで、ジャナルの魔力が急激に弱まっていく。



パァッ!!



俺の腕から、碧い光が溢れ出した。


ジャナルは、負けじと杖で俺の魔法に応戦する。


ガタガタと玉座の窓が揺れだした。

辺りが震えるように音を立てる。


城全体が、俺とジャナルの魔力に共鳴していた。


ジャナルは杖で魔法陣を描き出し、俺の放った碧い光を吸収していく。



ゴォォォッ!!



凄まじい突風が辺りに吹き荒れる。


拮抗する二つの魔力に、体が飛ばされそうになった。

まるで、同じ極同士の磁石を無理やりくっつけ合っているようだ。



…ジリ…!



足元が、床と擦れて音を立てる。


魔力を放出すると共に、胸の傷が開いていくのが分かった。



……っ。


あと少し…あと少しで、奴の魔法陣を砕けるはずなのに…!



ぽた、ぽた、と、俺の血が床を染めていく。



…保ってくれ…、俺の体……!



と、俺が歯を食いしばった次の瞬間だった。



バン!!



大きな音と共に、玉座の扉が開く。


玉座に渦巻いていた二つの魔力が、開け放たれた扉から外へ漏れ出した。


その時、俺の視界に映ったのは、弱ってはいるが確かな足取りで玉座へと足を踏み入れた王と王妃。

そして、全身傷だらけで、いつかの花冠を手にした“彼女”の姿だった。



「ロッド様!」