クロウは、私を庇いながら床に倒れ込み、女性の鋭い爪を紙一重で躱す。


しかし、どこまでも自由自在に伸びる腕は、簡単に私達を逃がそうとはしてくれない。



…この部屋自体が、まるで“拷問部屋”のよう。


こんな悪夢、見たこともない。



全て、大臣に読まれていたことに絶望感が込み上げる。


ざっと見回しただけで、本来の壁を埋め尽くすほど飾られた絵画の数は五十を優に超えている。


そして、そのそれぞれが命を吹き込まれたように動いて飛び出し、私達を襲ってくるのだ。



「く…っ!」



クロウが、もはや魔物と化した小鳥を剣で斬り伏せる。


農具を持った男性や、明らかに毒を持った蛇、フードを深く被った老婆。


次々と現れる敵は、じりじりとこちらへ迫ってくる。



恐れで、足がガクガクと震えた。


敵から、少しも目が離せない。



その時、さっ、と立ち上がったクロウが、迫り来る敵に剣を構えて威嚇しながら私に素早く言った。



「姫、先に行け。

地下牢までの道案内はここで終わりだ。」



…!



どくん、と心臓が鈍く音を立てた。


こちらに顔を向けないクロウが、一体どんな顔をしているのかは見えない。



「ここは俺が引き受ける。

…安心しろ。決して暖炉の先にはこいつらを行かせないから。」



この数を一人で相手するなんて、いくらクロウといえども無傷じゃ済まない。



…だけど、迷っている暇はない。

私がここに残ったところで、クロウの隣で戦えるわけじゃないんだから。



「ここまでありがとう、クロウ!

絶対に、死なないで……!」



「不死身の俺にそれを言うか?

お前に心配されなくても、これくらいの敵はどうにか出来る。」



それが、本心なのか、私のためを思っての強がりなのか、私には分からなかった。


ただ、クロウの背中からは、並々ならぬ強い意志が伝わってくる。



…私は、私のやるべきことを…!



私が暖炉の隠し通路へ飛び込むのと、絵画の魔物達がクロウに襲いかかるのは、ほぼ同時だった。