ぽつりと呟いた私に、クロウが目を細めながら続けた。



「こんな部屋で暮らしてたとしたら、趣味が悪いにも程がある。」



…そこは、ノクトラームの最上階の部屋とは別世界とでも言えるほどの部屋だった。


壁一面に、奇妙な絵画が飾られていて、家具は一切ない。


赤い絨毯が、その部屋の不気味さを際立たせていた。


高貴に見えるはずの絨毯は、まるで“血”に染められているようだ。



ごくり…。



一瞬、入るのが躊躇われたものの、私は喉を鳴らして一歩踏み出す。



「…暖炉は、“アレ”か。」



クロウが、私に続いて部屋に入りながら隅に置かれた暖炉へ視線を向ける。


幸いにも暖炉はそのままで、奥の隠し通路もちゃんとあるようだ。



…ここをくぐれば、地下牢まではあと少し。



「クロウ、早く行きましょう。

騎士達が来ない前に…!」



と、私が言ったその時。


クロウが、はっ!として剣を構えた。



ぞわっ!!



一瞬で部屋の空気が変わり、身震いがする。



な、何…?!



私が、クロウの背に隠れて身構えた瞬間、壁に飾られていた絵画が、ぐにゃり、と歪んだ。



「!伏せろ!」



クロウの声が聞こえた瞬間、自然が描かれた絵画の一つから、ミシミシと大木の枝がこちらに向かって伸びてきた。


絵画の中で空を飛んでいたはずの小鳥も、目つきの鋭い化け鷲になって部屋へと飛び出す。


驚きで、息が一瞬止まった。


声を出す余裕もなく、目の前に飾られた絵画の女の人の瞳が、ギラリ、と鈍く光る。



グワッ!!



突然、私たちを狙うように飛び出してきた女の人の腕。

その指には、鋭い爪が光っている。



まさか、これはジャナル大臣の罠…?!


絵画にかけた魔法で、地下牢に行かれる前に私達を殺すつもり…?!