ぽつり、と呟かれた言葉は、今までの冷たい声ではなかった。
過去を振り返るような、どこか温かく、芯の通った声。
その時、呆気に取られているラントを、クロウがぐいっ、と立ち上がらせた。
ぱちぱちと瞬きをするラントに、クロウは表情を変えずに口を開く。
「…なんだ、その顔は。
俺がお前達を助けたことが、そんなに意外か?」
「…いや、だって、数分前までは俺たちを殺そうとしてたし…」
「俺をジャナルから解き放ったのはお前だろ。」
クロウの言葉に戸惑っている様子のラントに、クロウは静かに続けた。
「ネックレスの呪いが解けた以上、俺がジャナルに手を貸す義理はない。奴との契約は、もう切れたんだ。
この体をくれたのはジャナルだが…自由になった今、“親”に反抗してみるのも悪くない。」
…!
その時、クロウが、すっ、と私へ手を伸ばした。
躊躇しながらその手を取ると、クロウは
ぐいっ、と私を引っ張り上げる。
「…セーヌ姫。」
クロウが、私の名前を小さく呼んだ。
彼をじっ、と見つめていると、クロウは剣を腰に戻して、私の手を繋いだまま言葉を続けた。
「あんたに、ここで城での“借り”を返させてもらう。」
「“借り”…?」
きょとん、とすると、クロウはまっすぐ私を見つめ返して言い切った。
「敵であった俺の呪いを浄化してくれた借りを返す、と言ってるんだ。
ここから、俺はあんたの“盾”になってやる。地下牢までの道を案内しよう。」
え…?!
ラントも、ロッド様達も目を見開いた。
信じられない提案に、つい言葉を失う。
「…返事は。」
「っ!い、いいの…?」
「借りを返すと言っている。あんたは俺の後を黙って付いて来ればいい。」
相変わらずぶっきらぼうな言い方だが、クロウは嘘を言っているようには思えない。
本当に、私達に協力してくれるの…?



