反逆の騎士長様




…っ!



「ロッド様…?!」



いつもより少し強引に引かれる手。


アルは、止めることもせずに、するり、と私の手を離した。


その対応にも驚いてアルの方を見ると、彼は何かを確信したような表情でロッド様を見つめていた。


その瞳は、どこか切なげに揺れている。



…バタン!



玉座の扉を抜け、アルの姿が扉によって視界から消えた。


ロッド様は、無言で廊下を進んでいく。



「ロッド様、どこまで行くんですか…っ?」



彼は、私の言葉には答えない。


その代わりに、私の手を握る指に微かに力を込めた。



コツコツと、速い足音が城に響く。


もつれそうになりながらロッド様に引かれて歩いていると、目の前に大きな扉が見えた。


その先にあるのは、夜に包まれた草原が見えるバルコニーのようだ。

少し開いていた扉から、冷たい夜風が吹き込んでいる。


ロッド様は、そのままバルコニーへと出て、立ち止まる。


そして、次の瞬間だった。



ぐらり!



視界が揺れた。


ロッド様に、腕を強く引かれる。


半ば倒れ込むようにしてロッド様の胸に飛び込むと、彼はそのまま私を抱き締めた。



…ぎゅぅ…っ!



いつもより、少し力強い腕の感触。


しかし、気遣うように力加減をしているのが伝わってくる。


私をすっぽり隠すほどのロッド様の体は、少し強張っているような気がした。



「…ロ、ロッド様……?」



私が、戸惑いながら彼の名前を呼ぶと、ロッド様は私の耳元で小さく答えた。



「すまない、姫さん。

…息苦しいんだ。胸が痛む。」



「…!」



私は、はっ、としてロッド様の背中に腕を回す。



「どうですか?少しは楽になりましたか…?」



「…あぁ。」



ロッド様は、そう小さく答えた。


胸の痣は私からは見えない。



…首元にはないから、そこまで広がってはないのかな…?

まさか、ジャナルの本拠地に近づいているから、呪いの進行が早まっているの…?



その時、ロッド様が低く言った。



「姫さん…。」



「はい…?」



「…もう少し、このままでいていいか?」



「は、はい…!ロッド様が楽になるまで、どうぞ…!」