…!
アルの瞳の色が濃くなる。
「もし、僕が手を繋いだり、抱きしめたり……キスをしてって言ったら…
………嫌…?」
戸惑いは、すぐに消える。
私は、迷う必要なんてない。
「もちろん、嫌じゃない。
だって、私はアルのお嫁さんなんだから…」
夫婦なら、愛のある触れ合いをするなんて当たり前だ。
ロッド様の時とは違う。
それ以上に気持ちの込もった、“嘘ではない”
触れ合い。
すると、アルは私に手を伸ばした。
…きゅっ、と優しく指を絡める。
触れたアルの指は、温かい。
ロッド様の冷たい指とは違う。
アルは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
そのまま、無言で私を引き寄せる。
…ぽすん…!
アルの胸に抱きとめられた私は、そのまま体重を預ける。
ぎこちない。
体の力が抜けない。
ロッド様の時とは全然違う。
アルは、優しく私の髪を撫でた。
その仕草に、過去の記憶が重なる。
頭に浮かぶのは、漆黒の髪の彼だった。
…私は、何を考えてるんだ。
すべての神経をアルに向けるんだ。
心も、アルでいっぱいにするんだ。
アルは、微かに目を細めた。
一瞬何かを考えるような仕草をしたアルは、どこか覚悟を決めたように私の頬に手を添える。
緊張が高まった。
目の前には、綺麗な翠の瞳。
無意識の中に、碧眼の整った顔が消えない。
…このままキスをしたら、きっとアルでいっぱいになれる。
キスをする度、思い出すのはアルになる。
きっとそう。
この不確かな感情が、凍りついて心の奥に沈んでいくのは、必然だ…………
アルが、ゆっくり距離を縮めた。
と、その時だった。
バン!!
「「!!」」
突然、扉を勢いよく開ける大きな音がした。
はっ!としてそちらへ視線を向けると、そこには息を切らしたロッド様の姿があった。
…どきん…!
不意に胸が音を立てた。
無理やり消そうとしていた人物が、瞳を通して心に強く刻み付けられる。
…どう…して……
私とアルが目を見開いた瞬間
カツカツ、とこちらに歩み寄ったロッド様がぱしっ!と私の手を取った。
「悪い、邪魔をする。呪いが進行して胸が苦しいんだ。
姫さん、借りるぞ。」



