どくん…!
優しげなアルの口調とは裏腹に、その言葉は重く、現実感のあるものだった。
どんな夢を見たとしても、どんな未来を描いたとしても
きっと、運命は変わらない。
「…一つ、いいかな。」
アルが、小さく口を開いた。
私がアルを見つめると、彼はまつげを伏せながら言葉を続ける。
「クロウとのこと…。
僕はロッド達と一緒に、旅館で起きたことを見ていたんだ。」
アルは、静かに続ける。
「あんなことをされたのに、君は今日、クロウの命を助けた。
…奴を許せないと思っていたのは、僕だけ…?」
…!
はっ、とした。
アルは、こちらに視線を向けないまま言う。
「セーヌさんがしたいと思ってしたことなら僕だって心の整理はつく。
…でも、妻になる人の唇を勝手に奪われるのは…大人げなく嫉妬するよ。」
“嫉妬”…?
アルが、クロウに…?
私は、アルの言葉を黙って聞いていた。
「前に、僕は恋愛を諦めてるって言ったけど…セーヌさんと会えたことは奇跡だと思うんだ。
僕の隣に座るのは、君であって欲しいと思ってる。」
初めて語られるアルの本音に、私はただ言葉を受け止めることしか出来ない。
揺らめくランプの炎が、私たちの影を映し出した。
「私は…、もう大丈夫。
あの日は不覚にも泣いちゃったけど、もう乗り越えられたから…」
すると、アルは私に尋ねた。
「…ロッドにノーカウントにしてもらったから?」
「!」
玉座の肘掛にかかるアルの指に、微かに力が込もった気がした。
思わず目を見開くと、アルは私へと視線を向けた。
翠色の瞳が私を映す。
「…昼間、クロウに言っていたよね。
“ロッド様になら、何をされてもいい”って」
アルが、一呼吸置いて言葉を続けた。
「…それは、ロッドだから…?」
アルは、真剣な瞳で私を見つめる。
私は、動揺を抑え込んで答えた。
「…どういう意味…?」
一瞬、玉座が静まり返った。
アルの声が、静かな部屋に響く。
「もし、僕がセーヌさんに、ロッドにしたのと同じことをしてって言ったら…
…どうする?」



