するとその時、アルがふと足を止めた。
つられて足を止めると、アルの視線の先に、赤い絨毯が敷かれた階段が見えた。
その先には、荘厳な雰囲気の大きな扉がある。
…あそこは…?
すると、アルが軽く私の手を引いた。
「…ちょっと寄り道しようか。」
にこり、と笑ったアルは、私をエスコートするように階段を上った。
そして、重く厚い扉に手をかける。
…ギィ…
音を立てて、扉の先に世界が広がった。
「…わぁ………」
思わず、声が漏れた。
そこには、綺麗な装飾の施された椅子が二つ。
赤い絨毯に映える、金色の椅子だ。
…もしかして、ここが“玉座”…?
いつの間にか、曇り空の隙間から月明かりが差し込んでいる。
窓はステンドグラスになっていて、月明かりに輝いていた。
…綺麗……。
城主も使用人もいなくなった城は、想像以上に神秘的で、どこか儚い。
腰掛ける主人を失った椅子が、もの寂しげに佇んでいる。
思わず見惚れていると、アルが、すっ、と私から手を離した。
アルは、コツコツ、と歩きながら玉座へと近づいていく。
「…ここも、よく掃除が行き届いているみたいだね。」
アルが、ぽつり、と呟いた。
…きっと、クロウにとって特に大切な場所なんだ。
私がふとそう思った時、アルが玉座の椅子の肘掛に触れながらこちらを向いた。
「…座ってみてもいいと思う?」
そう尋ねたアルに、私はこくり、と頷いた。
アルは、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
ステンドグラス越しに差し込む月明かりに照らされたアルは、“王子”そのものだった。
私は、アルへと歩み寄って声をかける。
「…やっぱり、アルは王子様なんだね。」
「え?」
「玉座に座ると、雰囲気が変わるわ。」
私の言葉に、アルが苦笑した。
「セーヌさんだって、お姫様でしょ?」
「私は、こういう場所は似合わないから。」
私が、そう笑い返した瞬間
アルが、ふっ、と真剣な顔をした。
…!
椅子の前に立つ私を、アルが見上げる。
「…そんなことないよ。
僕の隣に座るのは、セーヌさんしかいないんだから。」
「!」



