「…あ。これかな…?」
アルが、一つの本棚の前で足を止めた。
分類された本の中に、城に伝わる伝承の資料の背表紙が見える。
周りの本に比べて、相当年季が入っているようだ。
アルが、すっ、と手にとって資料をめくる。
中は、古代の魔法文字で書かれているようで、私にはさっぱり分からない。
「…アル、読めそう?」
「うーん…古すぎて劣化しているところ以外は何とかね。」
アルは、真剣な顔をして資料の文字に目を通している。
…邪魔しちゃ悪いよね。
そうだ。
城の地図でも探してみようかな。
私は、ゆっくりと音を立てないようにその場から離れると、隣の本棚へと移動した。
私の身長を優に越す高さの本棚に、くらりとめまいがしそうだ。
…えっと…
城の歴史や地形の本はどこにあるのかな…?
背表紙を見ながら歩いていると、ふと、私の目に“あるもの”が止まった。
私は、引き寄せられるようにその本を手に取る。
「…これ、“花言葉”の本だ…。」
ほこりを払うようにして表紙を撫でると、そこには可憐な花のイラストが描かれていた。
中を開いてみると、文字は私にも読める現代のものだ。
私は、興味本位でぺらぺらとページをめくっていく。
「…あ。」
その時、見覚えのある花が私の目に飛び込んできた。
つい、ページをめくる手を止める。
イラストに書かれた白い花の題名には、
“シロツメクサ”と書かれている。
…これ、ロッド様が私にくれた花冠の花だ。
鞄の中にある花冠のイメージとともに、過去のロッド様との記憶が蘇る。
…そういえば、“幸福”、“約束”とかいう花言葉だったんだよね。
アルに“復讐”っていう花言葉があることも教わったけど…
私は、ゆっくりとシロツメクサのページに目を通していく。
自然での生え方や、手入れの仕方、誕生花の説明の後に、花言葉の由来などが書かれている。
その時、私の頭の中に、かつてのアルの言葉が響いた。
“もう一つ、花言葉があったことを思い出してさ。”
そうだ。
確か、アルがそんなことを言っていたような気がする。
港町で、アルはそれ以上教えてくれなかったけど、一体何なんだろう。



