アルトラがそう言った、その時だった。



…キィ



部屋の中から、物音が聞こえた。


俺たちは会話を中断し、部屋の中へと神経を研ぎ澄ませる。



「窓から出て行くつもりか?」



ラントの声が聞こえた。



「…あぁ。傷が治って、もうここにいる必要が無くなったからな。

…お前たち、今日の所は城内で好きにしていい。この部屋も自由に使え。」



…クロウは、廊下にいる俺達にも聞こえるように言っているんだろう。


完全に俺達の存在に気が付いているからこそバルコニーから外へ出るしかない。


…ジャナルとの決闘前にここで傷を負うわけにはいかない。

深追いはしない方がいいか…?



俺が頭を回転させていると、部屋の中から再びラントの声が聞こえた。



「なぁ、お前、この城のこと詳しいんだろ?

荒れ地に繋がる道とか、知らねーのか?」







確かに、クロウなら隠し通路の場所を知っているかもしれない。


俺とアルトラは耳に神経を集中させる。


すると少しの沈黙の後、クロウの低い声が小さく聞こえた。



「…“女神の涙が落ちる”…。」



…?



思わず眉をひそめた時、クロウは言葉を続けた。



「“女神の瞳に輝き戻りし時、光への道開かれん”」



クロウはそこまで言って一呼吸置くと、感情のない声色で言葉を続けた。



「この城に伝わる伝承だ。

…俺が言えるのはここまでだ。俺はお前たちの味方じゃないからな。」



ビュゥゥウッ!



次の瞬間、わずかに開かれた扉から凄まじい勢いの風が部屋から吹き出してきた。

それと同時に、クロウの放っていた魔力が消える。



「…クロウが姿を消したみたいだね。」



アルトラが、小さく呟いた。


俺は眉を寄せて考え込む。



…城に伝わる伝承…?


どうして、クロウはそんなものを言い残したんだ?


…何かのヒントを与えたのか?



その時、アルトラがコツ…、と足を踏み出した。


はっ、として彼を見ると、アルトラは小さくこちらを振り返って口を開く。



「とりあえず、今は部屋に戻ろう。

セーヌさん達とは夕食の時にでも話し合うことにしようか。」



「!…あぁ。」



俺は、遠ざかっていくアルトラの背中を見つめた。


城とクロウの過去や、隠し通路の場所も気になったが

俺はそれ以上に、アルトラの口にした言葉が頭の中に強く残っていた。



“…じゃあ、そろそろ本気で口説いてみようかな”



…。


なぜ、俺が心を乱されなければならない。


俺は、心の迷いをかき消すように、自分の部屋の扉のノブを捻ったのだった。



《ロッドside*終》