アルトラの声は驚くほど冷静で、少しも動揺を感じられない。


俺は、自分にも言い聞かせるようにしてアルトラに答えた。



「姫さんは契約上、しょうがなく俺を受け入れてくれてるだけだ。

今の言葉も、他意はない。」



その時、アルトラが、ふっ、と俺を見た。


翠の瞳が俺をまっすぐ映し出す。



「本当に何も感じなかったのか?」



「え…?」



どくん、と心臓が音を立てた。



…どういう意味だ…?



アルトラの言葉の真意を考えていると、彼は微かにまつ毛を伏せた。



「…ここで仕掛けてみてもいいかもな。」



…え?



ぼそり、と呟かれた言葉は、俺の耳にはっきりとは聞こえなかった。


すると、アルトラは本心を悟らせないような声で俺に言った。



「…ロッドは、セーヌさんが僕を見てくれていると思うか?」



…!



「…あぁ、もちろんだ。お似合いだとも思う。

港町でも、二人で楽しそうにしていたじゃないか。なぜそんなことを聞く?」



「セーヌさんの瞳には、僕が映っていないような気がしてね。」



アルトラは、俺から視線を逸らした。


密かに交わす言葉の奥に隠れる、アルトラの心が読めない。


その時、俺の耳にアルトラの小さな声が届いた。



「…じゃあ、そろそろ本気で口説いてみようかな。」






俺は、ぴくり、と肩を震わせた。


今までとは違う色香の込もった声に、わずかに動揺する。



「…いいよね?ロッド。」



アルトラが、ちらりと俺を見た。


その試すような瞳に、俺は視線を逸らして答える。



「…だから、なぜ俺に聞くんだ。

夫が妻を口説くなんて当たり前だろう。」



「僕とセーヌさんはまだ仮婚約で、付き合ってもないけどね。」