私とラントは、黙ってクロウを見つめた。


…この人は、ジャナル大臣の命令で罪を重ねてきた。


でも、それはこの城を守るためでもあったんだ。



「…ねぇ、クロウ。」



私は、彼の名前を呼んだ。


微かにこちらに視線を向けたクロウに、私は言葉を続ける。



「…どうしてあの時、港町の旅館で私を逃したの?

命令に背いたら痛めつけられるって分かってたんでしょう…?」



「!」



クロウは、小さく肩を揺らした。


彼はまつげを伏せて、顔を背ける。


静まり返る部屋に、クロウの小さな声が響いた。



「…あんたの涙を見て……

…リディナが頭をよぎったんだ。」



…!



クロウは、ふっ、と目を閉じた後、ゆっくりとこちらに体を向けた。


そして彼は、ソファの側に座り込んでいた私をまっすぐ見つめて口を開く。



「…悪かった。強引な真似をして。」



はっ、とした。


クロウは、それ以上は言わなかった。


彼の言葉が全てだと、私も感じた。


私は彼を見上げて答える。



「…あの時のことは、お互いなかったことにしましょう。

私は大丈夫。…キスも“ノーカウント”に
してもらったから。」



クロウは小さく呼吸をした。


そして、何かを察したように目を細める。


その時、クロウが、すっ、と立ち上がった。


ちらり、とわずかに開いている部屋の扉へと視線を向ける。



…?


どうしたの…?



微かにクロウの纏うオーラが変わった気がした。

魔力が少しずつ流れ出す。


クロウは一瞬だけ鋭い瞳をしたが、すぐに扉から顔を背けて呼吸をした。