ぶんぶんと首を振って、頭の中から追いやる。
うん、もうあれはなかったことにしよう。
それでいい。
相手が覚えていないことを、私が覚えている必要はこれっぽっちもない。
「そういえば、たまに一緒に帰れないこととかあったよね」
「言ってくれたら良かったのに」と、笑って続けるありさ。
言っても良かったけど、そうしたら付き合ってくれるって言うのは間違いないから。
自分のせいで帰りが遅くなるのは申し訳なくて、わざと言わずにいた。
「あ、話は変わるけど、昨日お母さんに会ったんでしょ? どうだった?」
「うん、元気にしてたよ。晩ご飯食べながら、色々話出来た」
「そっか、良かったね」
まるで自分のことのように、ありさは嬉しそうな表情を浮かべてくれる。
それが嬉しくて、「うん」と頷きながら私も頰を緩める。
すると、
「それでね、あの……昨日なんだけど……」
さっきまでの表情から一転。
何だか言いづらそうな顔をして、口を開いたありさ。
いきなりどうしたんだろうと、続きを待っていると、
「高宮さん!」
どこかで見覚えのある男子に、呼び止められた。