「ゆづ、すごーい!良かったよー!」

ありさに褒められ「ありがとう」と、照れ笑いを浮かべる。


体育館から教室に戻りながら、ふと目に入った桜の木。

ところどころ緑が顔を覗かせているけれど、まだ色濃く残っているピンク色。

今日は入学式だった。


そして、ありさに何を褒められているかというと、ピアノ。

新入生を迎える式の中で、私はピアノの演奏を任されていた。


どこからピアノを弾けると聞いたのか、先生に頼まれたときはとてもびっくりしたけど。

物心ついた頃から習っていたピアノは、私の密かな特技だったりする。

それこそ昔は、コンクールなんかで入賞したりもしていた。


両親の離婚を機に辞めてしまった……けど。


「久しぶりに弾けて楽しかったな」


鍵盤に指を置けば、ステップを踏むように軽やかに指が動いた。


「聞いてなかったからびっくりしたよー! ゆづ、練習とかしてたっけ?」

「ああ、うん。たまに放課後とか音楽室で……」


ありさの質問に答えながら、ピタッと思考が止まる。

……あ、今嫌なこと思い出した。