お母さんと一緒に暮らせたら、どんなに幸せだろう。


私だって好きでお父さんについて行ったわけじゃない。

というか、むしろ嫌だ。
あの人と暮らすのは、苦痛でしかない。

でも……。


「……ううん、慣れてきたし大丈夫だよ」


私は首を横に振った。


ふたりが離婚するとき、どっちについて行くかは私の判断に任された。

私がお父さんを選んだのは、経済的なことを気にして……ということになっているけど、本当は違う。


本当の目的は、お父さんを縛りつけるため。


もし、私がお母さんと暮らしたら、お父さんは自由になってしまう。

好き勝手に生きることができる。


そんなの……絶対に許せない。だから。


それに――。



「結月……」

少し寂しそうな顔をするお母さん。


「ほら、あの家からの方が学校だって近いし」

私は取り繕うように理由をつけ、笑顔をつくった。


「それよりさ、お母さん……いい人いないの?」