ふわふわのハンバーグにナイフを刺せば、そこから溢れ出る肉汁。
美味しそう……。
一口サイズに切り分けて、いざ口の中へ運ぼうとしたときだった。
「今日、お父さんは……?」
「……」
躊躇いがちに聞いてきた、お母さんの言葉に手をピタッと止める。
「……さあ、わかんない。どうせ今日も帰って来ないんじゃないの?」
「年度始めだもんね。忙しいか」
ふっと苦笑したお母さんに、私は眉を寄せる。
何言ってるの……。
仕事が忙しいんじゃない。
ただ単に女のところへ行っているだけ。
それなのに……。
きっと私に気を遣ってだろう。
だけども、それが逆に息苦しい。
一旦止めた手を動かして、ハンバーグを口に放り込む。
濃厚なデミグラスソースの味が、口の中に広がったのと同時。
「結月、お母さんと一緒に暮らさない?」
「……」
「仕事も変わったことだし、結月のひとりくらい、お母さんだって養える」
柔らかく微笑んで言ったお母さんの言葉に、私はハンバーグをごくんと飲み込んだ。