「べつにいいじゃん、恨んでたって」
目の前から聞こえた声に、顔を上げる。
「悪いのは高宮の親父だろ。ふざけんなって言って、俺の時みたく引っ叩いてやれば?」
「……え」
「初対面の俺のこと引っ叩けたんだから、出来るだろ」
「なっ……!!」
篁くんの言葉に、思わず立ち上がりそうになる……けど、
「お待たせしました」
店員さんが料理を運んできて、私は浮かせたお尻を椅子に降ろした。
篁くんの前にはカットステーキ。
私の前にはドリア。
熱々の湯気と一緒に鼻をくすぐる、美味しそうな匂い。
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか? ごゆっくりどうぞ」
にこにこ笑顔の店員さんが離れてから、
「人のこと暴力女みたいに言わないで」
「違うの?」
「違うっ!」
私は篁くんに声を張り上げた。
引っ叩いたこと、一体どれだけ根に持ってんの。
もういい加減、忘れて欲しい。
でも……。
「高宮のこと、バカだと思ってたけど、親父のこと嫌いだとか許せないとか……そういう普通の感情があんのは、ちょっと羨ましかった」
突然、さっきまでとは違う声色で話し出した篁くん。
ハッとして前を向くと、
「俺は……あの人が死んだ時も、特に何とも思わなかったから」
「……」
初めて見るかもしれない彼の表情に、息を飲む。



