すき、きらい、恋わずらい。


少し躊躇いつつも、そのままドアをそっと開ける。

すると、窓際に腕組みして立ったお母さんは、私を見て「おかえり」と口パクで微笑んだ。


おかえり。

久しぶりに言われた言葉に、嬉しくなる……けれど。


お母さんの耳にあてられたスマホ。
誰かと電話しているのは、一目瞭然で。


「うん、うん、分かった。それは私の方から伝えておくから。それじゃあ……」

耳からスマホを離し、電話を切るお母さん。

私の名前が出ていたこと、口調、少し名残惜しそうな横顔から察するに、会話の相手は……。


「あ、ごめん。連絡くれてたのね」

スマホの画面を見ながら、さっき送ったメッセージに気付いたお母さんが謝る。


「うん、まだ仕事かと思ってたんだけど、早かったんだね」

「ああ、定時で上がらせてもらったの。結月が来るから嬉しくて」

本当に嬉しそうにお母さんは笑って。

「そんなところに立ってないで座って。晩ごはんの前にちょっとお茶しよう?」

言うと、ローテーブルの上にスマホを置いてキッチンへと向かった。