それから私は、ひとり駅へと向かった。
用があると言ったのは咄嗟の嘘じゃなく、本当のこと。
今日は学校が終わってから、お母さんの家に行くことになっていた。……と、いっても、お母さんも仕事があるから、急いでいたわけじゃない。
駅に着いて、電車に乗って、隣町にあるお母さんのアパートまで歩く。
【もうすぐ着くよ】と、電車の中でアプリからメッセージを送ってみたけど、まだ既読にならない。
もしかしたら、仕事が長引いているのかも。
そう思った私は、あらかじめ渡されていた合鍵を使って部屋の中に入っておこうとした……の、だけど。
「〜……」
鍵を開けると、微かに聞こえてきた話し声。
あれ……お母さんいる?
私はそのまま、靴を脱いで上がる。
「……だったらそれは、あなたの口から結月に言ってください」
玄関からすぐのキッチン。その先にある部屋のドアは閉められていて。
手をかけたところで聞こえてきた自分の名前に、ピタリと動きを止めた。



