全部、ぜんぶ、お母さんのため。

だってお母さんはまだ今も、父さんのことが好きだから。

どんなに傷付けられても、忘れようとしないから……。


「ごめんね、結月」

そっと耳元で謝った、お母さんも涙声。


「もう、いいから。もうお母さんのために頑張らなくていいから」

「っ、でもっ……」


「結月、お母さんと一緒に暮らそう?……ううん、お母さんのところに戻ってきてほしい」


震えて聞こえた、だけど真っ直ぐ聞こえた、お母さんの声。

その言葉を聞いた瞬間、私の涙は勢いを増して……目を閉じた。


「うんっ、うん……!」


今年17になるのに、まるで子どものように抱きついて、大きく頷く。

大好きなお母さんの匂い、温もり。


本当は……ずっとそう言って欲しかった。

父さんじゃなく私を、必要としてほしかった。



フォトフレームに入れられ、ラックの上に飾られた写真。

そこには、肩を寄せる父さんとお母さんと、真新しいセーラー服に身を包み、笑顔を浮かべる私。


守ってあげたかった。
お母さんの大事にしていたものを。


だけど……素直な気持ちは、ずっと苦しくて、寂しかったんだ……。