「私、わたしっ……」

今まで頑張ってきたのに、無意味だった。
何の意味もなかった。


「ごめん、お母さ……」

「ううんっ、いいの。いいの」

私の言葉を遮って、お母さんが抱きしめる。


「本当はね、気付いてた。あの家に残って父さんと暮らすって言ったの、お母さんのためだったんでしょ……?」

「え……」

「知ってたよ、結月は優しいから。……父さんのことをまだ好きな、お母さんのためだよね?」

「っ……!」


びっくりして目を見開く。
だけどそのまま、お母さんの背中に手を回し、ぎゅっと服を掴んだ。


なんだ……知ってたんだ。

私がお母さんじゃなく、父さんと暮らすことを選んだ本当の理由。


学校が近いからとか、お母さんの負担になるからっていうのは建前で。

本当は……いつか元通りに戻れるんじゃないかって思っていたの。


私が父さんと暮らせば、父さんは好き勝手に生きれない。

そのうちあの女(ひと)と別れて、お母さんの大切さを思い出して、戻ってくるんじゃないか。

そう思ったから、父さんと暮らすことを選んだの。