「腹減らない?」

「へ?」

唐突な篁くんの言葉に、目をパチパチさせる。


……でも、そういえば。

お昼を食べる予定だったのに、私のせいで食べ損ねちゃったんだっけ。


「あっち着いたら俺、飯食いに行こうと思うけど……高宮は?」

「へ?」

「飯、どうする?」


どうする、って……。

私は開いた口を閉じられない。

だってそれって、篁くんが私をご飯に誘っているみたい。


「……何か企んでる?」

「は?」

プルルルル……。


私の問いかけに、篁くんが怪訝そうな表情をした瞬間、電車がちょうどホームに入ってきた。

プシューッと、大きな音を立てて、止まった電車の扉が開く。


先に篁くんが電車へと足を進め、私もその数歩後を追う。


2駅先の地元の駅に着いたら、篁くんとバイバイして……帰る。

何も考えずにそうなると、さっきまでは思っていた。

だけど、前を歩く大きな背中。


「……行く。ご飯、行く。私のせいで食べれなかったから、お詫びに奢る」


私は少し足を早めて篁くんに近づくと、服を掴んでそう告げた。


「それで貸し借りなしね」

振り返った篁くんに、慌てて顔をそらして手を離す。


……言い訳。

本当はまだ、ひとりになりたくなかった。


どうしてだろう、大嫌いな篁くんなのに。

ううん、大嫌いな篁くんでも。


一緒にいると、嫌なことばかり考えずにすむから。

ひとりで泣かずにすむから……。