急ブレーキを踏んで、止まった車。

運転手の人が何かをこっちに向かって叫んでいるのが聞こえたけど、はっきりと耳に入らなかった。


今起こったことへの驚きと恐怖で、バクバクと強く打つ鼓動。


車はまたゆっくりと発進して、何事もなかったかのように周りの景色が動き出す。

そして。


「何してんだよ……」


聞こえた声に振り返ってみれば、篁くんが私の後ろに座り込んでいた。

……私の腕を掴んで。


「ちゃんと前見て走れよ、あっぶねーな」


呆れた声で言う、その声色に温かなものはやっぱり感じない。

だけど助けてくれたのは、間違いなくこの人。


「……な、なんで……?」


言わなきゃいけない言葉は別にあるって、分かっている。

だけど、篁くんが私を追いかけてくるなんて思いもしなくて。


「なんで……?」

もう一度、私が問いかけると、篁くんは表情ひとつ変えずに口を開いた。


「あんた、思ってたより弱そうだから」