な、なんで……。


反射的に振り返って、飛び込んできた人の姿に目を見開く。

思わず一歩、後ずさりする。


「結月……」


もう一度私の名前を呼び、目の前に立つのは……父さん。


そして、その隣には……綺麗な女の人。


30を過ぎたといったところか。

思っていたよりずっとずっと若々しいその人は、私と目を合わせると緊張した面持ちで会釈した。

さらりと長く真っ直ぐな髪が流れる。


こんな人だったんだ、と冷静に相手を見る自分と、まさかこんなところで会うとは思わなくて動揺する私。

だけど、ある物が目に入ってしまった瞬間ーー。


「結月っ!」


後ろに逃げようとした私の腕を掴んで、父さんが引き止めた。


「話がある」

「っ……」


真っ直ぐ、真剣な目で私を見つめ言う父さん。

久しぶりに正面から目を合わせた。
いつの間にか、顔のシワが随分増えた気がする。

……なんでこんなおじさんがいいんだろう。


「……見てわかるでしょ。私今、友達と一緒にいるの」

「少しでいい」

「……」


顔を逸らして言う私に、父さんは食い下がる。


友達と一緒っていうのが、逆に悪かった。

どうしたのという目で見られ、体裁を考えると、話を聞くしかなくなってしまったから。